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執筆者の写真Midori Okabe

ウクライナ避難民支援と国際協力の未来(1)

 ウクライナからの避難民の支援が日本でも話題になっています。戦禍を逃れてやってくる人々を積極的に受け入れる方針を国家が示すことは良いことで、日本政府の方針も高く評価されて然るべきと思います。もちろん、よりきめ細やかな対応が必要という議論はありうるわけで、今後も政策やプログラムの微調整がなされていくことになるのでしょう。

 他方で、今般のウクライナ避難民支援は、それまでの難民保護を目的とする国際社会の対応とずいぶん性質が異なる、ということも国内外の議論を呼んでいます。実はこれについては、少し前に批評を書きました。ですが、もう少し噛み砕いてここでお話ししたいと思います。

 いくつか論点があります。まず、今回ウクライナから世界に逃げている人々は「難民であって難民でない」、というお話をしましょう。欧州連合(EU)は、一時的保護指令 (通称Temporary protection Directive: Council Directive 2001/55/EC of 20 July 2001)を2022年3月2日に発動しました。これにより、ウクライナからEUへの庇護申請者数は減り、代わって一時的保護の申請者が急増しました。庇護申請と一時的保護の申請とはどこがどう違うのでしょうか。庇護申請は、原則として、難民の国際法上の定義(1951年難民条約及び1967年附属議定書)に合致した個人を、申請を受けた国が受け入れるかどうかを判断する手続です。難民条約に批准している国は原則、その条約に基づいて難民を受け入れる必要があります。

 しかしながら、この条約上の難民の定義はものすごく狭いのです。1951年難民条約第1条に「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」とあります。特定の集団(エスニック・グループや宗教団体など)の構成員や政治犯でなければならないことなどを条件としています。つまり、内戦や紛争を逃れてきた人は、それだけの理由では条約上の難民とはならないため、通常の庇護手続きでは受け入れられない人になってしまう、というわけです。

 一時的保護措置とは、そもそも旧ユーゴスラビア紛争の被害者をEU側が受け入れるにあたって導入した人道的配慮を目的とする難民受け入れ措置です。当時も、同じような問題、つまり通常の庇護手続きでは受け入れができないという問題があったことが窺えます。つまり、当時の旧ユーゴスラビアから逃げてきた人々も、今回ウクライナから逃げてきた人々も、一般的には難民ですが、難民条約上の難民ではない、ということになるわけです。

 それでは、難民条約での難民の定義をもっと広く捉えるよう改正すればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうです。実際そうなんですが、現実の国際社会ではなかなか難しかった。アジアやアフリカの国々の意見が通らなかった、というのが一つの理由ですが、同時に、難民条約が冷戦下の米国による対共産圏戦略に使われた、というものがより本質的な理由です。(これについては、昔のブログ記事で少し触れました。ご参考まで)。冷戦後、米国の対共政策へのインセンティブがなくなったことを受けて、難民条約やUNHCRのあり方について一時期議論があったのですが、大規模な条約改正というところまではどうしても至らなかった。結果として、庇護システム、というのは、難民や強制移住の問題にはとても本質的に対応できないシステムとして存在し続けてきた、というのが実態なわけです。

 それでは、今般、一時的保護指令が発動された理由はなぜか。ウクライナ人だけ特別あつかいされているのか?そうであればその理由は何か?こういった問題について、次回、考えてみたいと思います。




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