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コロナ禍と難民問題

移民問題にいかにアプローチすればいいのか、という問題へはまだ回答しきれていないのですが、今日は別のお話をしようと思います。


今日、ある新聞社の取材を受けました。Zoom取材もなかなかいいですね。それはさておき、テーマはコロナ禍での欧州の難民問題の現状について、でした。多分、お話しした全てが掲載されるわけではないと思いますし、インタビューではお伝えしきれなかったこともありますので、そういったことをここで綴ってみようと思います。


コロナ禍での難民

 コロナ禍において、新たに国外に逃避しようとしている人が増えているのか減っているのか、欧州諸国にどの程度新たに庇護申請をしようとしているのか、どの程度が正規に、また人道的な配慮によって受け入れられる可能性があるのか、ということについては、ごく断片的な情報しか分かっていません。EUの統計によれば、2020年の第二四半期には、前年同時期に比べてEUへ入国しようとする人の数が7割弱に減少したということですが、非正規の往来を含めると違った数字かもしれません。難民の審査件数は多くの国で減少したようですが、理由としては、対面での審査が難しいためオンラインなどの新し形式を導入するのに手間取っていることや、そもそも申請の受付などにあたる人員の確保が難しいなど、コロナ禍ならではの体制維持への課題が考えられます。他方で、やはり難民となる人の間でも、わざわざコロナウィルスが蔓延している国々に向けて移動しないだろうという推測もあります。いろいろな要因が複雑に絡み合う中、浮き彫りになるのは、難民や難民(庇護)申請者への対応はどうしても二の次、三の次になっているという実態です。

 この点、経済目的で欧州に移り住んでいる事実上の移民とは少し異なる状況が見られます。欧州では、街の清掃にあたる人やバス、地下鉄などの運転手、宅配業者、スーパーマーケットなどで働く人々など、いわゆる「エッセンシャル・ワーカー」のうち少なからぬ割合がEU以外の国出身の人であることが再確認されています(正確には、本人ではなくご両親などが、といった方がよいかもしれません)。彼らの存在なくては、この非常時に最低限の日常生活を送ることができない、という認識がEUの多くの国の人々の中で高まりつつあるようです。

 これに対して、難民の場合、特に、これから申請しようとしている人々に対しては、一般の国民の間でコロナ禍を契機に何か劇的な心境の変化は起こりにくいようです。もちろん、一般的には、恵まれない人々に対して救いの手が差し伸べられるべきと思っている人が多いでしょう。けれども、今は自分のことで精一杯という人が多いのではないでしょうか。また、国際社会も、そういう人を責めることはできないでしょう。


コロナ後の難民問題

 そして、コロナが去った後の世界のことを考えてみても、難民問題には暗い影がつきまといます。敢えて口にするまでもないですが、残念ながらコロナ後の世界は右肩上がりの経済成長は見込めません。巷で言われている「GDPギャップ」をいかに今後埋めていくか、ということが課題になるでしょう。その中で、経済的に余裕がある国でなければ寛大な対応が難しいという性格を持つ難民保護は、今後さらに難題に直面することになるでしょう。ここまで話が及んだとき、私が訴えたのはこういうことです。一般的には、ここで日本がリーダーシップを発揮して、とか、日本がもっと難民を受け入れなければ、とか行ったおざなりな「べき」論で終わりにする論調が多いけれど、それは、綺麗事で無責任だと。日本が一国で何かすればよいという問題ではないでしょう、と。少なくともポスト冷戦期の難民問題の本質は、紛争や内戦の早期解決に真剣に取り組まない国際社会の問題だ、という認識が必要だと私は思います。何よりも、難民が生まれるような状況、その大元の要因を一刻も早く除去すること、これがなければ、欧州の難民危機も解消しないですし、日本の難民問題も改善しません。各国の通常の外交において、難民問題への解決が一義的なアジェンダとならない限り、本質的な解決は否めません。そして、問題は、そのような外交路線を採用するインセンティブを、米国も、EU諸国も、日本も全く持っていない、という現実なのです。

 国内外のマスコミの方々がこの問題に今でも関心を持ってくださっているということ、それ自体は大変望ましいことですし、世界も捨てたものではないと思います。今後はぜひ、難民問題を難民問題とだけ認識し、その枠内でのみ解決しようとしても不可能なのだ

、ということをぜひ訴えていただきたいものです。先進国の指導者を一方的に悪者(あるいは無能?)呼ばわりするつもりは全くないですし、むしろ、合理的な行動の結果として冷静に評価していますが、だからこそ、先進国のインセンティブを人間の安全保障の純粋な追求に向かわせるための良策がどこかにないか、皆が議論する舞台を是非マスコミの方には作っていただきたいと思っています。

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