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リベラルは多文化に寛容?

更新日:2020年11月2日

ジェームズ・ウッズという俳優がいます。言わずと知れたハリウッドの名脇役ですが、私はたまたま"The Hard Way" という映画を見たのがきっかけでファンになりました。ハリウッドには確かに天才的頭脳を持つ俳優の方々がたくさんいるとは聞いたことがありますが、この方もそのひとり。なんとIQが180もあるそうです!マサチューセッツ工科大学(MIT)で政治学を専攻するも退学してオフ・ブロードウェイの舞台に立つというなんとも個性的なバックグラウンドの持ち主です。

 突然なぜこの人の話題になったか、というと、ウッズさんは以前からTwitterを繁く更新しています。特にトランプ政権に代わる頃から、時折エキセントリック(すぎる?)なツイートを頻発していることで注目されているとか。私自身、ファンと言いつつもそれほど彼のup to dateな情報に興味があるわけではないので、時々思い立ったときにチェックする程度ですが、今回は、2020年8月25日共和党大会にトランプ大統領メラニア夫人が行ったスピーチについての、ベット・ミドラーという女優(有名な方ですよね。この方の歌も私は大好きです)とのやり取りが目に留まりました。

 なんでも、ミドラーさんは民主党支持ということ、そしてトランプ大統領(とその周辺)が大嫌いということで、メラニア夫人のスピーチを散々にこき下ろしたのだとか。スピーチそのものは人種間の平和を訴えるもので、米国主要紙においても高く評価されているようです(少なくともトランプ大統領よりは!?)。ミドラーさんはスピーチの内容というよりも、メラニア夫人の存在そのものをおちょくるようなツイートをしたということです。今風に言えば、「ディスった」っていうところでしょうか。

 具体的には、ミドラーさんは、Oh God. She still can't speak English.(なんてこと、彼女はまだ英語が話せないのね!)と、そのニュアンスからして"mocking"、つまり嘲笑するようにツイートしたそうです。また、メラニア夫人のことをillegal alien(不法滞在の外国人)と罵ったりもしたのだとか。

 これを受けて、ウッズさんは、"The party of diversity mocks an American for her accent"(多様性を擁護する政党の支持者が、ひとりのアメリカ人をその言葉の訛りでバカにしている)とツイート。これが秀逸で、ぜひこの機会に紹介したいと思い立ったわけです。

 トランプ氏の登場以来、また政権発足以来、共和党やその支持者は反移民、外国人嫌い(ゼノフォビア)で人種差別的な人々が多いようなイメージで語られてきました。特にメディアは、事柄をセンセーショナルに取り上げる傾向にありますから、制限的な移民政策のみがクローズアップされるきらいがあった。とはいえ、私はトランプ政権が移民や外国人に十分に寛大な政策をとっているとは思いませんし、政権の内部には、やはり、黒人に限らず特定の人種に対する偏見を持っている人がいるのではないかと疑ってもいます。この意味で、私はトランプ政権の現行の出入国管理政策に賛同していません。しかしながら、共和党を支持する一般の人たちが総じて排他的で人種差別的な考えを持った人であるとも思いません。なんらかの理由で民主党を支持できない、という理由で、また共和党の他の政策に期待している人もいるかもしれません。したがって、人種差別や多様性への寛容という観点だけで、共和党と民主党のそれぞれの支持者を特徴づけてしまうのは適切でないと思います。

 何よりも、ウッズさんのツイートにあるように、多様性に寛容で、人種差別に反対することを党是としているはずの民主党支持者が、あるいは民主党支持でなかったとしてもリベラル派と自負している人たちが、時として非常に冷酷で悪質な差別やレッテル張りをすることがある、ということーこの現象を、私たちはもっと憂慮するべきだと思います。自分たちはリベラルである、人権擁護派である、特定の××氏は私たちとどうも政治信条が違うらしい。その取り巻きも厄介だ。だからそういった人間に対してはどんな罵詈雑言を浴びせても構わないー。このようなリベラルの「暴走」が近年問題視されているということだろうと思います。私自身、数年前にニューヨークのある研究機関の人と共同会議をしたことがあります。会議ではドイツ社会におけるトルコ人差別の問題が浮上したのですが、その時、私は地域によってはドイツ人が逆にマイノリティになっているところもある。そういったところでは、学校などでトルコ人が逆にドイツ人を虐めるという構図が問題になっている。社会の摩擦の問題は一面的な議論だけでは解決できないという趣旨の発言をしたことがあります。するとなんと、一部の人々は途端に私に対する態度が冷たくなり、発言が荒々しくなり、情報を得たいと思っても教えてくれなくなりました。本当に、その発言をする直前まではとても温厚で親切で素敵な方だったので、かなり戸惑った記憶があります。

 当時は(当時も、というべきかもしれませんが^^)私の英語力も拙かったので、十分自分の意思を伝えきれていなかったのかもしれません。しかし、今回のミドラーさんのツイートを読んで、必ずともそうとはいえないのではないかと思い直しました。リベラル派を気取る一部の人々は、実のところ自分と違う考え方を持っている人を受け入れる器量が小さいのではないかと思います。これは、極右などのレイシストの偏狭さに通じるものです。真のリベラルとは、相手がどんな人なのか、ということよりも、相手がどんな行動をするか、という観点から人物を評価します。もちろん、嫌いな相手であっても、その行動がリベラルな評価に値するものであれば、それを称賛するのがリベラル派たるものの真骨頂だと思います。

 ミドラーさんのツイートは、移民というプロセスを経て正式に米国国籍を取得した人に対する、また、異文化を体験し、複数の言語(文化)を理解する人に対する品のない野次とみなされ、激しく糾弾されました。これを受けて、ミドラーさんは翌日、謝罪をしたということです。彼女は改心して、”America is made up (of) people who speak with all kinds of accents, and they are all welcomed always."と発信しています。

 私は、アメリカ文化の美点は、良くも悪くも率直な発言が評価され、時にはそれを受けて素直に間違いを認め、またそれが許される社会であるところにあると思っています。日本の場合は、集団主義が悪い形で発揮されるととても醜悪な社会摩擦が起きるような気がしています。ポリティカルにコレクトな考え方に疑問を呈するだけで、集団から糾弾されるという構図が発生しやすいのが日本です。これがなぜ良くないか、というと、そういう歪みに対抗するために、今度は極右的な集団が出来上がってしまうからです。多様性を受け入れることは大切です。それは、一人一人が発する意見について、なじるのではなく説諭する、仲間外れにするのではなく堂々と反対意見を言う、といったような、個人を尊重するような(政治)文化や風土が育たないことには、右にも左にも、おかしな形で日本の政治が動いていってしまう危険があります。そして、米国も他の国も、失敗を繰り返しながら発展していること、国際社会がいつも「完璧」ではないことにも私たちは気づく必要があります。外国人との共生という問題、そして人が移民すること、出身国ではない国の国民になるということは、非常に多面的な複雑なプロセスを経ているのでしょう。私自身、日本で生まれ育った日本人ですので、自分の体験として理解することは不可能です。しかし、だからと言ってこの問題に目を背けずに、丁寧に対応していく必要があるのだな、と実感した次第です。



 

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