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パリは燃えているか? 子連れ出張に思うこと

 みなさま、ご無沙汰しております。春学期も終わり、久しぶりに私も少し休むことができました。休みの期間は今まで読みたくても読めなかった本にじっくり向き合うことができます。これだけでも、日々の生活でささくれ立った心が癒されます。実は私の知り合いはほとんど知っていることですが(笑)、私は本当に不良大学院生で出来が悪く、ほとんど真面目に勉強しませんでした。当時は学術書を読むこと自体が苦行でした(笑)。それが最近では「心の癒し」になっている。驚きです。歳をとるとはこういうことなのか、としみじみ思います。

 振り返ると、学者を生業にするようになってからあっという間に四半世紀が経ってしまいました。そろそろ、まとまった成果を出すべき時期だという思いを強くしています。

そんな昨今ですが、昨日目にしたネットのニュースが気になったので、今日は雑談がてら、現代の職業人として思うことを連ねていきたいと思います。今日は難民や移民の話ではありません。悪しからずご了承ください。

 ネットでは、ある女性国会議員の方が子連れでパリを視察されていることが大騒ぎになっているようです。実は渦中の議員の方は私の大学時代のサークルの先輩でした。学年も学部も違ったのでそれほど近しい方ではありませんでしたが、私が困っている時に優しく手を差し伸べてくださる、頼もしい方でした。成績ご優秀なのはもちろんのこと、冷静沈着で深い洞察力を持つ方でした。私は今でも彼女は素晴らしい人格の方だと思っています。

 そうであるからこそ、今回の件はとても残念ですし、それ以上に非常に不可解でした。何より、バカンス中にパリに行っても仕事で得るものはほとんどありません。多くの人は休暇を取るので、まずもってまともなミーティングの機会は得られません。それに、8月にもなるとレストランですらほとんど閉まってしまい、空いているのはアジア系エスニックレストランくらい。もちろん美味しいところが多いですし我々が長期滞在しているときなら、むしろなくてはならないお店ですが、旅行の場合は「わざわざパリに来なくてもよかったのでは」、という気分になること請け合いです。

 以上のことは外交に携わっている方、ヨーロッパで仕事をしたことのある方ならほぼ全ての人が分かっているはずなのです。ましてや、M議員がそれを知らないはずはなかったでしょうに、なぜ旅行を決行したのだろう?これが非常に不可解なのです。何か避けられない事情があったのかもしれないですね。。。

 いずれにせよ、今回彼女が写真までアップロードしたということについては私も残念な気持ちです。広報活動をするにせよもう少しスマートな方法があったろうと思います。少子化対策の研修ならば、その研修先の写真でよかったのではないでしょうか。わざわざエッフェル塔の写真を載せる意味はないだろうと思います。

 一連の出来事についてのマスコミの取り上げ方はいささかワイドショー的で、それに対する一般の方々の対応も様々。これらを一つ一つ取り上げるつもりはありません。しかし、一点気になったのは、子連れで出張に行くなんて!という批判があったことです。これについては、一言申し上げたいなと思ったのが、実はこのブログ記事を書くきっかけです。

 一部、子連れで出張することが常識的ではないという意見があるようですが、こういった考え方が日本社会のデフォルトになると困るな、と正直思います。私はまだ実際に行ったことはないですが、その理由はまさに「子連れ出張は非常識だ」という古い考えを持つ私の両親が体を張って子供の世話をしてくれるからです。世話をしてもらえることはとてもありがたく思っていますが、他方でそのために、「なぜそこまでして出張しなければならないのか」について事前に大家族会議を開く必要があり、そのために仕事場よりももっと完成度の高いプレゼン資料を用意しなければなりません(ほんとの話です。苦笑)。コストパフォーマンスはどの程度なのか、子供や高齢者を「犠牲にしてまで」(実際そのように言われます)行かなければならない出張なのか、を説得しなければなりません。そして、私のような稼業の場合、過去の史料を読む(オンライン化されていない文献もまだ多くあります)、政策に関して当事者の話を聞く、ということについては出張しないと達成できませんが、そのような手法を取らない分析をすることもできなくはありません。また、国際会議への出席もオンライン出席、あるいは出席せずとも共著に執筆するというだけの参加の方法もあります。ですので、総体的には何がなんでも出張しなければならない、ということでもない、という評価もできるわけです。

 実際、このような理由で何度も出張を取りやめました。それ自体は私が決めたことですし、ネガティブに捉えているわけではありません。子供がある程度大きくなるまでには必要な処置であったと思っています。

 しかしながら、敢えて出張することで生まれるプラスの効果ははかりしれない、ということも事実です。特に国際会議に参加することは、セッションの間だけでなくその前後で同業者間のネットワークを構築することで、次のプロジェクトを生み出すきっかけにもなるわけです。そういったことを念頭に置くならば、やはり機会があれば出張したいですし、それがしやすい環境が社会的に容認されているとありがたい、と感じるところです。

 実際、会議主催側はこういった問題に理解を寄せてくれるようになっています。国際学会では子供を預けるサービスを提供してくれるところも増えてきました。また、数年前パリで国際会議に参加した際、これはとても小規模なものであったのですが、出席した同業者の男性研究者が、勤務地のロンドンからお子さんと一緒に参加していました。お子さんは確か中学生くらいだったと思います。会議中は退屈していたのかもしれないですが(笑)、終了後、みなでレストランで食事をした際も一緒に参加し、他の大人たちとも溶け込んでいました(もちろん礼儀正しく)。私はその男性研究者の方にあまり突っ込んだことは聞かなかったのですが、その方の奥様も同業者であることは知っていました。我々の業界は、二人親であろうがワンオペ育児であろうが、子供が自宅に一人となりうるような仕事の状況が生まれるわけです。日中だけであれば他人のお世話になることもできるでしょう。しかし、日を跨ぐ、となると、やはり何とか親元に置いておければ、と方法を探すことになります。私の場合も、今の時点はまだ家族が文句を言いながらも支援をしてくれているのでかろうじて助かっていますが、いつまでもその支援に頼れるとは限らない。その場合どうすればよいか、ということは常に悩みの種です。

 幸い、私は数年前、当時の副学長から、大学の仕事で国際会議への出張が必要となった場合子供を連れて行っても良いですよ、とおっしゃっていただいたことがありました。なお、子供の渡航費、宿泊費などはもちろん自分の負担で、というお話です。実際は連れて行くことはなかったのですが、それでも、大学側が「連れて行かないのが常識」という対応ではなかったことをありがたく思いました。今回のM議員の写真投稿がビジネスの場での社会的慣行を変えるところまでは至らないと思いたいところですが、さまざまな人々の反応がある中で、多くの真っ当な批判に紛れて、一昔前の保守的な慣行を良しとするような風潮が再燃することのないように、と願っています。






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